言葉のひと解き

清湖口敏 武漢ウイルス この教訓を歴史に刻むため

中国・武漢市内を視察し、住民に向かって手を振る習近平国家主席(手前)=3月10日(新華社=共同)
中国・武漢市内を視察し、住民に向かって手を振る習近平国家主席(手前)=3月10日(新華社=共同)

 新型コロナウイルスが猛威を振るい、誰も彼も、口を開けば出てくる言葉は「ウイルス」ばかりだ。今ではさすがに「ビールス」と言う人はいないが、シニア世代が学校で習ってきたのは紛れもなく「ビールス」だったし、新聞でも平成の初め頃まではビールスとウイルスの両様の書き方を認める社が多かった。

 原語のVirus、virusは一般にヴィールス、ビールス、バイラス、ウイルスと表記されてきたが、ラテン語読みのウイルスを採用した日本ウイルス学会は昭和40年、ビールスが主流となっていた新聞界にウイルスへの表記統一を求めてきたのである。

 ◆濁音なら

 ふと今回の災禍に限ってはウイルスではなくビールスと呼んだらどうかと考えた。その方が語感も汚らしく、外出自粛要請もどこ吹く風の一部若者らにも病原体の怖さが伝わるのではないかと思えたのである。そう、日本人なら濁音に対する特別な音感を潜在的に有しているに違いない-と。

 例えばバイキンというごくありふれた言葉がある。漢字の黴菌(ばいきん)は見るからに不衛生だが、仮に黴菌の字を知らなくても日本人は、バイキンと聞くだけで汚らしいと感じるのではなかろうか。類語にサイキン(細菌)という、バイキンとは1音違いの、これまたありふれた術語があり、漢字も黴菌よりずっと易しいのにもかかわらず、私たちが会話で頻用するのは「バ」で始まるバイキンである。

 「触るとバイキンがつくよ」と子供に教える親はあっても、「サイキンがつくよ」と教える親はまず、あるまい。「汚い」を幼児語で「ばっちい」と言う例などとも併せると、バには明らかに汚れた響きがあり、言葉をよく理解できない子供でさえも、バの音だけでただならぬ事態と悟ることもあるのかもしれない。

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