没後50年 三島由紀夫と私

作家・平野啓一郎さん 生き残ってしまった孤独

「三島の小説を読まなければ、文学に目覚めることもなかったかもしれない」と語る平野啓一郎さん (宮川浩和撮影)
「三島の小説を読まなければ、文学に目覚めることもなかったかもしれない」と語る平野啓一郎さん (宮川浩和撮影)

 三島由紀夫(1925~70年)の文学作品は後進の書き手にも刺激を与えてきた。「『金閣寺』論」などを発表してきた芥川賞作家の平野啓一郎さん(45)もそんな一人。三島と同じく若くして才能を開花させた平野さんは「三島との出会いがなければ小説家になっていなかった」と語る。(聞き手 海老沢類)

「金閣寺」に衝撃 作家の原点

 僕が中学に入ったのは三島の死後十数年がたったころで、事件のことを語る大人も周囲にいたんですよね。じゃあ、どんな本を書いているのかな? そんな興味から、14歳のときに長編『金閣寺』(※1)を読んで衝撃を受けました。

 詩的で華麗でレトリックにも富む。それまで読んだ近代文学とは違うきらびやかな文体で、「こんな日本語があるのか」と新鮮でしたね。吃音(きつおん)のために社会からの疎外感を抱えて、金閣寺に象徴される美を唯一のよりどころにして生きる主人公。その暗い内面の告白が、自我に目覚め、社会と自分との間に違和感を抱き始めていた時期の僕の心に響いてきたんです。

 本を読むのがあまり好きではなかった僕がそこから文学に目覚め、小説にのめり込んでいく。だから小説家として活動している原点にはあの読書体験がある。