歴史の転換点から

(10)『大日本』『世界政治の中の日本』-英国発もう一つの「坂の上の雲」が描く国民の歴史

「ウルトラマン」をデザインした成田亨作『真実と正義と美の化身』(個人蔵、画像は青森県立美術館提供)
「ウルトラマン」をデザインした成田亨作『真実と正義と美の化身』(個人蔵、画像は青森県立美術館提供)

 「私が日本に住んでいたころ、常に声を大にして言ってきたのは、自分たちの国を偉大にし、個人の生活を満足かつ十全にするために必要である限り、日本人は西洋の科学や文明を存分に活用すべきではあるが、自分たちの持ち味である生活様式や国民性についてはあまねく堅持し、国家的なレベルだけでなく、個人的なレベルでも、日本人としての個性を守ってゆくべきだということだった」

 わが国の「近代科学技術教育の父」と称される英国人、ヘンリー・ダイアーは1904(明治37)年に発表した主著『大日本』の第18章「(日本)社会に及ぼした数々の影響」でそう述べている。なぜか。「その過去を忘却し、その並外れた独自性のすべてをほうり出してしまうような国(民)は、真の意味で偉大と呼ぶ価値がないばかりでなく、実際、そうなりはしないからだ」とダイアーは断じている。

 では、日本が守り続けるべき国民性とは具体的にはどのようなものなのだろうか。

日本人の美徳と不思議な能力

 「真のサムライにとっては仁愛や度量の大きさ、憐憫(れんびん)の情、そして慈悲の心は至高の美徳であり、人間の精神をつかさどる最も貴重な構成要素だった。このことが世間一般に及ぼした影響の結果については称賛の言葉しかない。それは誠実かつ社交的な物腰であり、生活習慣の優美さであり、進んで人のために何かをするさいに見せる細やかな気遣いであり、どんな境遇にあっても、外面上は自分は最善かつ最上の気分にあるようにふるまうことができるあの不思議な能力なのである」