「燥(騒)音と速度(スピード)の現代のなかで、日本古代の手刷木版錦絵ばかり、しづかな夢ときらびやかな幻想をもたらすものが、どこに二つとありませう。それこそ曽(か)って日本が生んだ、たった一つの独創美術、やがてゴッホ、セザンヌの新流派さへ生み出した、世界の驚異でありました」
浮世絵と「銀河鉄道の父」
だれあろう、深遠な童話『銀河鉄道の夜』や「雨ニモマケズ」詩でしられる宮沢賢治が残した「浮世絵(錦絵)広告文」の書き出しである。昭和6(1931)年ごろ、賢治は、「なつかしい伝統日本/江戸錦絵のおもかげ」との見出しがついたこの一文を、その7年前、売れ行きの悪さから半分自費出版のようなかたちで刊行することになった童話集『注文の多い料理店』の出版関係者からの要請に応じてすらすらと書き上げたのだという。