歴史の転換点から 番外編

『麒麟がくる』を再考する 新論「本能寺の変」「平蜘蛛」「蘭奢待」

明智光秀像=大津市下阪本の坂本城址公園(関厚夫撮影)
明智光秀像=大津市下阪本の坂本城址公園(関厚夫撮影)

 放送開始直後から「大河ドラマらしい本格的大河ドラマ」との評価を受けていた『麒麟がくる』が先日、怒涛(どとう)の結末で高視聴率をたたき出し、有終の美を飾った。新しい明智光秀像や織田信長像を中心に上質の歴史ドラマが展開されてきたことがその理由だろう。ドラマをめぐる歴史の諸説とは。『麒麟』に登場した「蘭奢待(らんじゃたい)」「平蜘蛛(ひらくも)釜」「本能寺の変」をキーワードにして考えてみる。(編集委員 関厚夫)

蘭奢待の謎

 蘭奢待とは奈良・正倉院が宝蔵する「天下第一の香木」である。天正2(1574)3月(旧暦)、信長はそこから1寸(約3センチ)四方計2片を切り取ったとされる。同様の行為は、室町幕府8代将軍の足利義政(1436~90)以来とされ、信長は前年、宿敵の朝倉氏と浅井氏を滅ぼし、15代将軍の足利義昭を京から追放して室町幕府を崩壊させていた。

 こうした歴史的経緯から信長による蘭奢待の切り取りは、「天下人」を意識した示威-といった解釈が多い。『麒麟』でも切り取りのさい、信長がみせる至悦の表情が印象的であり、朝廷に献上された1片の蘭奢待(の一部?)が信長の知らぬ間に正親町(おおぎまち)天皇から中国地方の覇者、毛利輝元に下賜される、というエピソードが「信長と正親町帝の亀裂」に至る重要な伏線として描かれていた。