
映画は記録的な興行収入、漫画単行本は入手困難な状況が続き、アニメは繰り返し放映-。「鬼滅の刃(きめつのやいば)」が令和最大のムーブメントを巻き起こしている。世代を問わず共感を呼び、社会現象と化した要因はどこにあるのか。国際日本文化研究センターの小松和彦名誉教授と京都精華大の吉川昌孝教授に聞いた。
表裏一体の人間と鬼 小松和彦氏
春先の頃だったか、知り合いの編集者から「鬼滅の刃」が面白いと聞き、妖怪の研究者として、アニメ版を見たのが始まりだ。その後漫画を手に取った。誰もが知っている「鬼」を中心に据えた物語である。そもそも日本人にとって鬼とは何か。盗み、詐欺、殺害…。人間としてやってはいけないことを寄せ集めた悪の象徴が鬼であり、倫理的、道徳的な人間のイメージを作るために造形された、いわば人間の否定形、人間の裏返しなのである。