李登輝秘録

第6部 薄氷踏む新任総統(5)軍を国のものに 権謀術数の人事

台湾総統だった李登輝が行政院長に任命したカク(=赤におおざと)柏村が今年8月に出版した回顧録
台湾総統だった李登輝が行政院長に任命したカク(=赤におおざと)柏村が今年8月に出版した回顧録

 1990年3月21日の選挙を経て、李登輝は5月20日に代理総統を脱して正式な総統に就任した。

 だが、そこで李が行政院長(首相に相当)に任命したのは国防部長(国防相に相当)のカク(赤におおざと)柏村(かく・はくそん)だった。

 選挙でカクが「李登輝おろし」を画策したことは公然の秘密だ。政界では李への疑心暗鬼が広がる。一方で世論は、81年から8年間も参謀総長を続けて軍の実権を握ってきたカクに、強烈な拒否反応を示し始めた。

 野党の民進党は「民主化への逆行」とかみつき、3月に民主化要求デモの矛を収めた学生らは、「軍人の政治干渉」だと李への批判に転じ、デモを行った。

 しかし李は、「当時、誰にも言わなかったが、参謀総長のカクを国防部長や行政院長に引き上げたのは、国民党の支配下にあった軍を国家のものにする重要な作戦だった」と明かした。