
北朝鮮の金正恩体制で異例の解任劇が発生した。金王朝の「権力の要」である朝鮮労働党組織指導部の責任者の解任が2月末、党機関紙「労働新聞」で発表された。組織指導部は北朝鮮恐怖政治の権力の源泉で、党、軍、政府の核心層人事と粛清のすべての権限を握る。責任者は党のナンバー2で、かつては金日成の実弟や金正日が務めた。あえて解任が公表された前例はない。金正恩体制の本丸で一体、何が起きているのか。
公開解任のナゾ
朝鮮労働党高官の解任が公表されるのは2013年12月の張成沢(チャン・ソンテク、国防委員会副委員長=当時)以来で6年ぶりのこと。北朝鮮はメディアで高官解任や政治粛清を報道しない。高官があるときから報道されなくなり、その後に新任が現れて人事の異変が判明するのが通例だ。
今回、解任されたのは李万建(リ・マンゴン)組織指導部長で昨年4月に就任、在任期間はわずか11カ月だった。李氏は前々職が党軍需工業部長だ。16年、17年の3度にわたる核実験、40発を超えるミサイル発射の責任者として金正恩氏の随行に姿を見せるようになった。18年、組織指導部第一副部長に取り立てられ、19年4月、崔竜海(チェ・リョンヘ)組織指導部部長の後任として組織指導部部長と党副委員長に昇進した。
北メディアは解任の具体的理由を明示していないが、「党幹部養成基地に重大な腐敗現象が発生した」「非党的行為や特権、不正腐敗行為を集中批判した」などとしていることから、「党幹部養成基地」が意味する幹部学校「金日成主席高級学校」の入学をめぐる不正(贈収賄)ではないかとみられている。政治局拡大会議はこの学校を担当する朝鮮労働党内の委員会も解散しているからだ。
しかし、北朝鮮専門家が注目するのは、今回が不正懲罰以上に権力核心層に向けた「特別の意味がある」とみられるからだ。