中国の「強制労働」サプライチェーンに目を閉ざしていいのか 村上政俊

同志社大学ロースクール嘱託講師の村上政俊氏
同志社大学ロースクール嘱託講師の村上政俊氏

 中国に製品や材料などを過度に依存したサプライチェーン(供給網)の見直しが、日本でも議論となっている。コロナ禍の当初、マスクすら満足に国内調達できなかった現実は、グローバル化の急所を我々に教えてくれた。

 一方で米国のトランプ大統領は9月になって米中デカップリング(経済的切り離し)に改めて言及。米有力シンクタンク「外交問題評議会」のハース会長も、コロナ後の世界ではサプライチェーンの脆弱性によりデカップリングに大きく向かうと述べたが、米国では少なくとも一部サプライチェーンの「脱中国」化が進められようとしている。

 こうした米国の動きは、経済の観点からだけでは理解できない。背景には、覇権を巡っての米中対立の激化がある。ただし、それだけでも十分に読み解くことはできない。日本ではあまり知られていないが、中国のウイグル問題の急速な悪化が米国の政策にも大きな影響を及ぼしている。

 新疆ウイグル自治区では現在なんと100万を超える人々が自らの意思に反して抑留されていると言われる。民族問題に加えて、信教の自由そして基本的人権といった国際社会共通の価値の点から、米国だけでなく世界的な批判が高まっているのだ。

 豪州の有力シンクタンクである戦略政策研究所(ASPI)は今年3月、ウイグル関連の強制労働についてのリポートを発表した。ナイキ、アディダス、アップルといった世界的有名企業82社の実名を挙げ、サプライチェーンに強制労働が含まれている可能性があると指摘した。

 このリポートによると、迫害を受けるウイグル族が新疆から中国国内のほかの地域の工場に送られて働かされ、その境遇は強制労働を強く示唆するものだという。中国はその内容を否定したが、リポートの反響は大きかった。