メルケルの仮面 ドイツはなぜ左傾化したのか  川口マーン惠美

作家の川口マーン惠美氏
作家の川口マーン惠美氏

 2005年以来、16年の長きにわたりドイツの保守政党CDU(キリスト教民主同盟)を率いてきたアンゲラ・メルケル首相。自由主義陣営の代表的指導者として、EUでも力を発揮してきた。奇しくもその間にドイツは急速に中国に接近、さらに国内政治の左傾化も進んだ。そのメルケル氏は今秋に引退の予定だが、折しも、今、彼女のCDUは未曾有の危機に陥っている。その背景と、メルケル後のドイツを探ってみたい。

川口マーン恵美氏の著書「メルケル仮面の裏側」
川口マーン恵美氏の著書「メルケル仮面の裏側」

 「次期政権はCDU抜きで立てられるチャンスが大きくなった!」

 3月14日の2つの州議会選挙の直後のこと、SPD(ドイツ社民党)の代表の一人、ザスキア・エスケン氏は舞い上がった。この州選挙は、9月の総選挙の行方を占うものとして注目されていたが、どちらもCDUが票を減らした。つまり、SPDは緑の党、FDP(自民党)と連立すれば、どちらの州政権からもCDUを締め出せるようになった(一つの州では、現在すでにそうなっている)。エスケン氏は総選挙後の国政でも、これと同じ状況を望んでいるわけだが、そうは言っても現在の独政府はSPDとCDUが連立している。こうなると、連立政権内の不和は隠しようもない。

 SPDは1863年に発足したドイツ最古の栄えある労働者の政党だが、今では党の存続が危ぶまれるほど没落している。低調の原因は、度重なるCDUとの連立。SPDの大いなる誤算は、同党が果敢に打ち出した社会主義的な政策に、保守であるはずのCDUがあっさりと乗ったことだ。脱原発の加速、難民の無制限受け入れ、年金の大幅引き上げ、同性婚の完全合法化など、もともとSPDが掲げていた政策が、CDU政権下(一部はFDPとの連立)でまるで手品のように実現した。