実際はそれが何だかよくわからないにも関わらず「よい」とされているものは、どの社会にも存在する。「多様性」は現代日本社会におけるそうしたものの代表だ。多様性重視を掲げ、それを推進すると謳(うた)う自治体や企業、学校はよい自治体、よい企業、よい学校だとされる。
多様性推進の例として頻繁に挙げられるのが、イスラム教徒への対応である。その理由はおそらく外見的に「外国人感」が強く多様性をアピールしやすい存在がイスラム教徒だからであろう。実際、イスラム教徒のために礼拝所を設け、彼らが食べられるハラール食を提供することは、よい自治体、よい企業、よい学校の証しであるかのようにさかんに宣伝されている。
確かにそこに礼拝所やハラール食があれば、イスラム教徒にとっては好都合であろう。しかし多様性なる概念は決して、一部の人にとってだけ有利であったり好都合であったりすることを志向する趣旨ではないはずだ。