「泣いたこともあった」 三島由紀夫「潮騒」のモデルが抱えた思い 三重・神島

「潮騒」に登場する千代子のモデルとなった山下文代さん(左)と三島由紀夫
「潮騒」に登場する千代子のモデルとなった山下文代さん(左)と三島由紀夫

 「この小説にはモデルといふものがない」。三島由紀夫は自作「潮騒」について古代ギリシャの物語の翻案であって、描いた純粋な初恋の主人公たちに実在のモデルはないと書き残している。しかし近年、取材した伊勢湾に浮かぶ神島(三重県鳥羽市)の灯台長一家や職員との交流を示す手紙が見つかり、風景だけでなく人物造形についても島での印象が作品に大きな影響を与えていたことが明らかになった。(荒木利宏)

灯台長一家と深めた交流

 神島灯台は、明治43(1910)年に設置された。岩礁を照らし出す副灯を備え、浅瀬の多い難所の伊良湖水道を往来する船の安全を守ってきた。

 三島は神島滞在中、この灯台にたびたび足を運び、灯台長だった山下四郎さんや夫人の當重(まさゑ)さん、東京の大学に通い、帰省中だった娘の文代さんら一家と知り合い、交流を持った。