戦後75年 日米安保(1)

中国脅威で変容する日米同盟 コロナ禍でも対立

 冷戦時代、自衛隊と米軍の役割は「矛(ほこ)と盾(たて)」と形容されてきた。自衛隊がソ連の侵攻を食い止め、攻撃力を備えた米軍の来援を待つ-。60年前の昭和35年6月23日に発効した日米安全保障条約を基礎とする同盟は、伝統的な役割を超えて変容している。

緊急事態宣言下で共同訓練

 4月10日。新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急事態宣言が発令された3日後、海上自衛隊の護衛艦「あけぼの」は東シナ海にいた。昨年12月、米海軍佐世保基地に配備された新型強襲揚陸艦「アメリカ」と戦術運動や通信の共同訓練に臨むためだ。

 米海軍は空母「セオドア・ルーズベルト」で新型コロナの集団感染が発生し、厳しい状態に置かれていた。それでも共同訓練を実施したのは、いかなる状況でも日米連携は揺るがないという「明確なメッセージ」(防衛省幹部)を中国に送る狙いがある。

 2隻が訓練中、別の巨艦が東シナ海に現れた。中国海軍の空母「遼寧」だ。遼寧は4月10日に5隻を従えて東シナ海を航行し、11日には宮古海峡(沖縄本島-宮古島間)を通過して太平洋に入った。日米の訓練と時を同じくしたのは「偶然」(海自幹部)だが、コロナ禍にあっても海上覇権をめぐるつばぜり合いが続く現状を示した。

 遼寧は28日に宮古海峡を北上し、再び東シナ海に。中国空母が宮古海峡を往復するのは初めてだ。中国も海軍力の増強を誇示する「明確なメッセージ」を日米両国に送ったことになる。昨年春まで防衛省制服組トップの統合幕僚長を務めた河野克俊(65)は「今なら押し込んでも強いリアクションはないと考えているのだろう」と語る。

ミサイル2000基配備

 「露骨な威圧だ。こんなものを見せつけて…」

 昨年10月、自衛隊幹部はこう述べて警戒心をあらわにした。「露骨な威圧」とは、北京の天安門広場で開かれた軍事パレードに登場した最新の極超音速滑空ミサイル「DF17」だ。マッハ5以上で迎撃しにくい複雑な軌道を描き、在日米軍基地にも届くとみられる。

 今から33年前、米国と旧ソ連(現ロシア)は中距離核戦力(INF)全廃条約を結び、地上配備型の中距離ミサイルの製造・保有を互いに禁じてきた。この間、中国は製造を続け、同国本土から海に向いた中距離ミサイルは2千基程度配備され、その多くが日本を射程に収めるとされる。

 米国は対抗策としてINF全廃条約から離脱した。昨年8月に条約が失効した翌日、米国防長官のマーク・エスパーは中距離ミサイルのアジア配備を目指す考えを示した。いずれ米政府が日本配備を要求する可能性もある。