
政府が地上配備型迎撃システム「イージス・アショア(地上イージス)」配備計画の停止を発表したことで、敵基地攻撃能力の保有に向けた議論が再び活発になってきた。安倍晋三首相が自民党内の保有論を「受け止めていかなければならない」と発言したからだ。実現すれば、北朝鮮の弾道ミサイルへの対処能力が向上するだけではなく、日米同盟の在り方そのものにも重大な影響を及ぼし得る。
「抑止力とは何かということを、突き詰めて考えていかなければならない」
首相は6月18日の記者会見でこう述べ、国家安全保障戦略(NSS)の見直しに向けた作業に着手する考えも表明した。政府は同月24日の国家安全保障会議(NSC)で改修に多額の費用が必要なことが判明した地上イージス配備中止方針を確認。年末までにNSSを改定する方針だ。
抑止力は、大きく分けて「拒否的抑止」と「懲罰的抑止」の2つに整理できる。拒否的抑止とは、攻撃を無効にする能力を示すことで敵を思いとどまらせる考え方で、地上イージスのようにミサイルで敵ミサイルを撃ち落とすミサイル防衛(MD)は典型的な拒否的抑止だ。
一方、懲罰的抑止とは、敵に耐えがたい損害を与える意図と能力を示すことで攻撃を思いとどまらせる方法となる。
地上イージスを配備できず、拒否的抑止に限界が生じるならば、懲罰的抑止を追求せざるを得ない。自民党の防衛相経験者らが首相発言を機に敵基地攻撃能力の獲得に向けた勢いを増しているのはこのためだ。
■懲罰に高いハードル
気を付けなければならないのは、自衛隊が敵基地攻撃能力を持つとしても、これが懲罰的抑止力になるとは限らない点だ。昭和31年に鳩山一郎内閣が示した見解では敵基地攻撃能力自体は憲法上認められているが、その範囲は限られている。