いいね!の権力--“みんなの声”という「匿名の権威」が支配する  仲正昌樹

緊急事態宣言が出されていた当時の渋谷スクランブル交差点。以前は大勢の人が行き交っていたが…=今年4月11日、東京都渋谷区(古厩正樹撮影)
緊急事態宣言が出されていた当時の渋谷スクランブル交差点。以前は大勢の人が行き交っていたが…=今年4月11日、東京都渋谷区(古厩正樹撮影)

 ナチスの迫害を逃れてアメリカに亡命した社会心理学者エーリヒ・フロムは、第二次大戦中に公刊した著作『自由からの逃走』で、現代人に見られる、自らの自由を自発的に放棄しようとする傾向が、ナチスに代表される全体主義を生み出したことを指摘している。近代化に伴う伝統的共同体の解体によって、各人は自らの生き方を自分で決める自由な個人になった。しかし自由は、その帰結に対する責任を伴う。人生の進路を誤っても、誰も助けてくれない。戦争や恐慌のような事態が生じ、将来の見通しが立たないと、自由であることへの不安が募っていく。そこで、神のごとく全てを見通し、導いてくれる権威を求め、それに全てを委ねたくなる。

コロナ禍での「自由からの逃走」

 終わりが見えないコロナ禍は、自由よりも権威を求める傾向を強めているように見える。3月にロンドンやニューヨークのロックダウンが決まった頃から、日本でも早急に緊急事態宣言を出すべきだとの世論が強まった。直前まで、緊急事態宣言は自民党の改憲案の国家緊急事態条項の容認に繋がるとして強い懸念を表明した護憲派リベラルも、緊急事態宣言待望論に同調した。新型インフルエンザ特措法による宣言では、大したことができないと分かると、ロックダウンのような強い措置が求められるようになった。違反者を罰することのできる法改正を主張すべきだとの論が、左右双方で提起されている。

金沢大教授の仲正昌樹氏
金沢大教授の仲正昌樹氏