昭和天皇の87年

憲法改正に走り出した重臣、近衛文麿の哀れな末路

画=千葉真
画=千葉真

第205回 ある貴族の自殺

 皇居の真向かいに建つ堅牢なビル、第一生命館(※1)は、占領期を生きた世代には忘れられない存在だろう。マッカーサーのGHQ、すなわち連合国軍最高司令官総司令部が接収し、本部として使用していたからだ。

 昭和20年10月4日、ここに、1人の男が訪ねてきた。東久邇宮稔彦王内閣の副総理(国務相)、近衛文麿である。

 近衛はマッカーサーと面会し、戦争に至った“真相”を懸命に語り出した。

 いわく「軍閥を利用して日本を戦争に駆り立てたのは、財閥や封建的勢力ではなくして、実に左翼分子であつたことを知らねばならない…」。またいわく「今日の破局は、軍閥としては確かに大きな失望であるが、左翼勢力としては正に思う壺である…」

 マッカーサーは根っからの反共主義者だ。近衛の話に興味を示し、こう言った。

 「敢然として指導の陣頭に立たれよ。もし(近衛)公がその周囲に自由主義分子を糾合して、憲法改正に関する提案を天下に公表せらるゝならば、議会もこれに従いて来ることと思う」