昭和天皇の87年

究極の洗脳工作 国民に自虐史観を植えつけたのは

画=千葉真
画=千葉真

第207回 絆とくさび(1)

 「閣下、御きげんは如何でいらっしゃいますか。私共は、最高司令官でおいでになる閣下に対して、一番お親しみを感じ、それと共に閣下のあたたかいお心をおたより致します…」

 連合国軍最高司令官、ダグラス・マッカーサーのもとに届いた東京在住の女性からの手紙だ。

 「敗戦国の民として私共はどのような惨苦も甘受するものでございます。(中略)どんな苦悩もグチ一つ云わずに忍ぶだけの心をもって居りますが、日本人の唯一つ忍びがたいものは、天皇に関する御不幸であります。それはどんなに小さな御不幸でも私共は忍ぶことが出来ません…」

 手紙には、天皇の戦争責任をにおわすような新聞記事を読み心を痛めていること、しかし天皇に責任はないこと、側近らが天皇を窮地に陥れたこと、にもかかわらず天皇に責任を転嫁する卑怯者(ひきょうもの)が一部にいて恥ずかしく思っていること-などがつづられ、最後をこう結んでいた。

 「閣下にお願ひいたします。どうぞ日本天皇を御理解下さいまし」

 昭和20年の秋以降、皇居の真向かいに本部をかまえたGHQには、こうした手紙や直訴状が膨大に寄せられていた。それがGHQをして、天皇訴追を断念させる一因になったといえなくもない。ただしGHQは、国民が示す天皇への敬愛を好ましいとも、いじらしいとも感じていなかった。むしろ、恐れていたのである(※1)。