
第240回 宮中のあつれき
昭和52年7月17日、栃木県の那須御用邸に滞在していた昭和天皇は、《御用邸敷地内の三沢橋・千篠園新道周辺を御散策になる。皇后も御一緒の御予定であったが、この日の朝、腰を痛められたため急遽お取り止めとなる》(昭和天皇実録54巻165頁)昭和天皇実録の記述はこれだけだが、この日、香淳皇后はトイレで転倒し、腰椎を圧迫骨折した。《腰を痛められた》程度ではなく、入院治療も検討されるほどの重傷である。ところが侍従長の入江相政らは入院に反対し、宮内庁は「ギックリ腰」だと発表。しばらく那須御用邸で安静に過ごすこととなった。以後、香淳皇后の回復は遅れ、二人そろっての公務が制限されるようになる。重傷を隠そうとした入江らの判断が、適切でなかったと言えなくもない。