孤高の国母

(28)忠義一徹、老女官の“しごき” 皇太子妃は涙ぐんだ

 皇太子妃となって間もない頃だ。ある日の昼下がり、嘉仁皇太子に誘われ、一緒にテニスの練習をすることになった。

 節子妃が胸をときめかせたのは言うまでもない。弾む心を抑えきれず、御殿から外に出るとき、階段を2~3段とばして飛び降りた。

 と、階下に老女官が、氷のような表情で立っていた。

 「ほう、叶(かな)ひませんな」

 老女官の一言に、節子妃の胸の鼓動は、一気にしぼんだに違いない。

 その老女官-、万里小路(までのこうじ)幸子の人柄を一言でいうなら、忠義一徹だろう。宮内庁が所蔵する当時の文献によればこの頃、幸子は昵懇(じっこん)だった佐佐木貞子に、そっと言った。

 「何分皇妃殿下にも当今の風に候哉(そうろうかな)御軽々にて心配せり…」

 親友に愚痴を漏らしたようにも聞こえるが、そうではない。「御軽々」だからこそ厳しく指導しなければならないと、幸子は使命感に燃えていた。

 なぜなら節子妃が、英照皇太后の姪(めい)だったからだ。