孤高の国母

(30)明治の皇后が皇太子妃にみせた愛と気品

美子皇后と節子妃が散策した明治時代の小石川植物園=小川一真編「東京帝国大学.明33」から(国立国会図書館所蔵)
美子皇后と節子妃が散策した明治時代の小石川植物園=小川一真編「東京帝国大学.明33」から(国立国会図書館所蔵)

 明治33年7月3日《(節子妃は)午前十時御出門、皇后の御誘引によりて小石川の東京帝国大学理科大学附属植物園に行啓あらせらる》(貞明皇后実録1巻60頁)

 現在も東京大学に付属する小石川植物園は、江戸幕府が開設し、貧病人のための無料医療施設「小石川養生所」が置かれた場所としても知られる。

 この植物園の散策に、節子妃を誘ったのは美子皇后(昭憲皇太后)だ。

 貞明皇后実録によれば前日の7月2日、侍従長の徳大寺実則が青山御所に参殿し、嘉仁皇太子に《爾今皇后の御摂養の為皇太子妃を誘ひて離宮等を遊歩あらせらるること月中二回、火曜を以て其の日と定めたまふべき叡旨を啓上》した(1巻61頁)。

 「皇后の御摂養の為」とあるが、それは美子皇后の気配りだろう。宮中という別世界に入った節子妃が、しばしば涙ぐんでいると聞きつけ、気晴らしの機会をつくろうとしたのだ。

 この日、帝都は晴れ。節子妃は小石川植物園に先着し、日傘をさして待った。お供とお目付け役を兼ね、東宮御内儀監督の万里小路(までのこうじ)幸子も付き従っている。

 ほどなく4頭立ての赤い馬車が到着し、扉が開いて美子皇后が降り立った。