孤高の国母

(33)愛する人への不安… 皇太子妃はひとり上京した

梨本宮妃伊都子=鍋島伊都子(公益財団法人鍋島報效会所蔵)
梨本宮妃伊都子=鍋島伊都子(公益財団法人鍋島報效会所蔵)

 栃木県の避暑地、日光田母沢御用邸の近くにある旧佐賀藩主、鍋島直大(なおひろ)の別荘に嘉仁皇太子(大正天皇)がふらりと訪れたのは、明治33年8月19日の午後である。

 直大の次女、伊都子(いつこ)が日記に書く。

 「いろいろかたづけ、暫(しばら)くすると御いでとの事。きものもそれなりにて御出向ひ申上、直に二階へならせられ、われわれも御挨(あい)さつ申上、御そば近くにてさまざまの御話し遊ばされ、丁度(ちょうど)、午後四時ごろより同五時二十分の時、還御遊ばされたり。御供は侍従一人、武官一人、侍医一人なり。犬ダックも御ともせり」

 嘉仁皇太子は、23日にも鍋島の別荘を訪れる。2階へ上がり、「御たばこなどめし上」ってから、伊都子に言った。

 「わが輩の犬をあづけるから、いつ子よくせわをしてやつてくれ」