孤高の国母

(57)人生初の大病 生死をさまよう皇太子妃

葉山御用邸の裏に広がる松林=神奈川県葉山町(酒巻俊介撮影)
葉山御用邸の裏に広がる松林=神奈川県葉山町(酒巻俊介撮影)

 誰しも人生には、幾つか分岐点がある。節子妃(貞明皇后)にとってそれは、結婚12年目の春だろう。花咲く春ではない。散らすような春だ。以下、貞明皇后実録が記す。

 明治44年3月27日《(葉山御用邸に滞在中の節子妃は)数日前より稍(やや)御違例の気味にあらせられしが、本日俄(にわか)に御発熱、悪寒を覚えさせられたるにより、御仮床に就きたまふ。乃(すなわ)ち侍医片山芳林をして拝診せしめられしところ、御体温三十九度を超え、御脈拍百余を算し、爾後御体温三十九度乃至四十度を上下す…》(12巻5頁)

 この日は、嘉仁皇太子(大正天皇)が地方巡啓で長崎県佐世保へ行くため、葉山御用邸を出発した日だった。節子妃は嘉仁皇太子を見送った後、高熱を発して寝込んだのである。