孤高の国母

(59)正史に書かれた明治天皇、崩御の衝撃

明治天皇
明治天皇

 その年の夏は、格別に暑かったと伝えられる。

 明治45年7月15日、皇居東溜の間で開かれた枢密院会議。日露の秘密協定をめぐる交渉経過を説明していた首相の西園寺公望は、途中で言葉を失った。

 ふだんは端然として微動だにしない明治天皇が、頭を揺らして居眠りをはじめたからだ。

 「陛下…」

 はじめて目にする異変である。西園寺は狼狽(ろうばい)した。

 明治天皇自身、はっと目覚めて驚いた。会議が終わり、侍医頭の岡玄卿が拝診した際、「夜分の暑さに、よく眠れぬ」と漏らしたが、そう弁明するしかなかったのだろう。

 だが、異変の原因は、連夜の蒸し暑さではなかった。

 明治天皇紀によれば、天皇は翌16、17日も公務につくが、《御歩行著しく緩慢》となり、18日は《終日恍惚(こうこつ)として仮睡したまふ》状態となる。そして19日の夕食時、「目がかすむようだ」といって椅子から立ち上がり、よろけるように倒れた。