スポーツ茶論

「鋭い牙」隠す北京冬季五輪 黒沢潤

 記者人生の中で、これほどまであぜんとした経験は記憶にない。イタリア北部トリノで2006年、冬季五輪が開催されていたときのことだ。

 北京で2年後、夏季五輪が開催されるのに合わせ、トリノの五輪メディアセンターで、北京五輪組織委員会主催の記者会見が行われた。初の五輪開催で、やたらと胸を張る壇上の中国人組織委幹部に、「北京五輪の際、記者の『言論の自由』は保証されるのか?」と質問したところ、中国人男性が筆者に走り寄り、「名刺を見せろ」とすごんだ。

 気に食わない質問に露骨に圧力をかける一党独裁主義国ならではの強権姿勢に改めて驚くとともに、異常な監視を強いられる人民の苦労を思い、暗澹(あんたん)たる気持ちになった。

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 異質性が際立つこの国の首都で来年2月、冬季五輪が開催される。国際社会からは今「五輪ボイコット論」が噴き出してきた。新疆(しんきょう)ウイグル自治区で、当局による深刻な弾圧が行われているためだ。収容所で拷問が行われ、女性は注射や投薬を強いられ生理が止まる例も続出しているとの恐ろしい証言も出ている。