日光東照宮外伝

彫刻が語りかける 天下泰平の象徴 陽明門

日光東照宮の象徴といえる陽明門(鈴木正行撮影)
日光東照宮の象徴といえる陽明門(鈴木正行撮影)

 別名「日暮門(ひぐらしのもん)」ともいわれる、日光東照宮の象徴「陽明門」。東照宮の社殿55棟に飾られた彫刻5173体うち約1割にあたる508体が陽明門に集中しており、「見飽きることがなく、日が暮れるのも忘れるほどの門」(日光東照宮発行「陽明門を読み解く」より)という意味がある。

 彫刻製作では、狩野探幽(かのう・たんゆう)をはじめとする狩野派の絵師が参画し、従来の社殿彫刻には用いられなかった人物彫刻の下絵を提供し、一気に多様な装飾が実現した(同書より)。門の上層部の高欄には、唐子(からこ、中国の子供の意)が遊んでいる様子の彫刻「唐子遊び」がある。徳川家康公が礎を築いた天下泰平を象徴するといわれている。

唐子遊び

 「一番上には鬼瓦、その下に東照大権現と書かれた青い額。これは後水尾天皇の書。その下に龍が2段になっている。赤い舌を出していますが、それぞれの形が違う。その下には子供たちが遊んでいる彫刻がある…」

 平成23年まで東照宮の神職として観光客に彫刻の魅力を伝えてきた高藤晴俊さん(73)は、今でもすらすらと陽明門の説明をそらんじることができる。

 昭和50年代の初め頃、高藤さんがいつものように唐子遊びの説明をしていたとき、一人の男性観光客が「遊んでいる子供の彫刻がなぜ陽明門に」と質問した。答えに窮した高藤さんは「失礼ですがその質問はせめて1週間前に文書で提出してください」と観光客を笑わせた。続けて「子供が遊んでいるということは、戦争、飢餓、貧困がないということでしょう。このような平和が訪れたのは家康公が天下統一を成し遂げたからではないでしょうか」と答えた。陽明門をつくらせた3代将軍家光公の狙いが「子供が安心して遊べる世の中をつくるという徳川政権の“政権公約”ではないか」(高藤さん)と考えたのだ。まったくの思い付きだった。