花外楼の人・歳時記 皐月

百花の王 牡丹が咲く老舗料亭の初夏

 俗に「立てば芍薬(しゃくやく)、座れば牡丹」という。江戸時代から美女を形容するために用いられてきた表現で、芍薬も牡丹もともに春に咲く、大きな花弁をもった花である。

 どうやら花にも位があるらしい。

花外楼の廊下にはこの時期、春や初夏の花々で彩られた津端道彦の屏風が出されている(南雲都撮影)
花外楼の廊下にはこの時期、春や初夏の花々で彩られた津端道彦の屏風が出されている(南雲都撮影)

富貴の象徴

 宰相の位を与えられた芍薬は、「花相(かしょう)」と呼ばれる。一方、芍薬よりもうひとつ大きな花を咲かせる牡丹は、「花王」と称せられ、古来、富貴の象徴とされてきた。

 ここは大阪の名料亭「花外楼」の福の間。その床の間の5月の掛けものに、約500点といわれる書画のなかから、女将の徳光正子さんが選んだのは、日本画家、西山翠嶂(すいしょう、1879~1958年)の描いた「牡丹」である。

 「(軸を選ぶのに)難しく考えたことはありません。やはり季節ごとですよね。2月は梅、3月は立雛、というふうに…」

 北側から差すやわらかな光のなかで見る大輪の花は今を盛りと咲き誇っている。