考・皇統

(上) 北畠親房、会沢正志斎、皇室をドライに割り切る思想家が皇位継承論じれば

 政府は3月、安定的な皇位継承策を議論する有識者会議を設置した。会議には、初代神武天皇から一昨年に即位された天皇陛下に至るまでの皇統はなぜ男系によって継承されてきたのか、そもそも皇室の存在を先人はどのようにとらえてきたか-といった骨太の議論が求められる。3日で施行74年の憲法は、天皇陛下を「日本国の象徴であり日本国民統合の象徴」と規定する。この極めて重要なお立場をどう継承していくか。思想や法律の専門家2人に聞いた。今回は儒教や日本思想史が専門の早稲田大学非常勤講師、大場一央氏の見解を紹介する。(中村雅和)

北畠親房(阿部野神社所蔵)
北畠親房(阿部野神社所蔵)

危うい「お気持ち」重視

 皇位継承議論に限らず皇室をめぐる問題については、陛下をはじめ皇室の方々への親しみや懐かしさといったメンタル的な部分、心情に立脚し、議論を組み立てられることが少なくない。

 その延長線上で「お気持ち」がクローズアップされることも多い。先の「生前退位」や秋篠宮殿下、同妃殿下の長女、眞子内親王殿下の「婚約内定」の件は、近年での代表的な例だといえる。古くは昭和天皇のご発言とされる靖国神社へのA級戦犯合祀問題に関する「メモ」も世間をにぎわした。これらをもとに、忖度(そんたく)するような動きは枚挙にいとまがない。皇室を「憲法遵守(じゅんしゅ)や平和主義の象徴」として印象付けようとする動きは、左派を中心に盛んだ。

 皇室をめぐる問題が、国論を分断するような状況や、天皇がいずれかの派に与(くみ)し何らかの意思表示を迫られるような局面を拓(ひら)くことは極めて危うい。分断は、安定を間違いなく阻害する。

 確かに、皇室の存在が日本人の祖先からの営みを紡ぐ縦糸として、日本人の物語が続いているという安心感をもたらしていることは事実だ。しかし、だからこそ続くことこそが大事なのだ。

 日本思想の流れを追うと、皇室への心情や「お気持ち」に寄りかかった危うさをはらむ態度ではなく、日本人の気風や日本国の体制構築に寄与する「システム」として皇室をドライに割り切っていた姿が見えてくる。

 この思想的な伝統は明治維新を機に失われていき、今日、顧みられることは少ない。しかし、極めて大きな示唆を与えてくれるものだ。

会沢正志斎(茨城県立歴史館寄託資料)
会沢正志斎(茨城県立歴史館寄託資料)

役割分担を司る

 この伝統を知る上で重要な人物に、南北朝時代、南朝方の重臣として後醍醐天皇を支えた北畠親房(きたばたけ・ちかふさ)がいる。親房が故実や漢籍の成果をもとに著した『神皇正統記』では書き出しが「大日本国神国也(おおやまとはかみのくになり)」と始まることから、“反動的右翼”の始祖だとも指弾される。

 確かに親房は、日本を神の意思に沿わなくてはならない国だと位置付けたが、それにはこの時代特有の事情がある。彼が生きた中世は現代人にとってなかなかイメージがしにくい。