12月30日

産経抄
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 『徒然草』の吉田兼好に筆のしくじり話がある。雪の降る朝、知人に用件のみをしたため手紙を出したところ、返事が来た。雪に一言も触れぬ、ひねくれ者の言うことを聞けましょうか。「口をしき御心(みこころ)なり」。情けないお心ですねと、手厳しい。

 ▼雪の風情に、筆が寄り道するくらいのゆとりはお持ちなさい。返書の文面からは、そんな声が聞こえてくる。要点のみの無味乾燥の文面も、季節の風物に触れた一筆を添えるだけで気の利いた便りになる。慌ただしい年の瀬を迎え、人ごとではない筆の粗相である。