産経抄

1月25日

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 『半七捕物帳』の作者、岡本綺堂が若い頃の東京には、まだ江戸の情緒が残っていた。インフルエンザが猛威を振るった明治23年から翌年にかけて、江戸時代に流行(はや)った「お染風」の呼び方が復活する。

 ▼歌舞伎や浄瑠璃の演目「お染久松」で、お染が久松に惚(ほ)れる場面のようにすぐに感染するからだ。20年後に発表した随筆には、向島で出会った農家の若い娘が出てくる。白い手拭いをかぶって、軒先に「久松るす」と書いた紙札を貼っていた。お染が訪ねてこないようにとの、おまじないである。