作家の向田邦子さんは子供の頃、宴席から酔って帰った父によく起こされた。手をつけなかった口取り肴(ざかな)や二の膳の折詰を広げ、父は「さあ、お上がり」と促す。夢とうつつの境で箸を行き来させる子供たちを、手枕で楽しげに眺めていたという。
▼日頃は怒りっぽい父も、酔うと優しい。〈記憶の中で「愛」を探すと、夜更けに叩き起されて、無理に食べさせられた折詰が目に浮かぶ〉とエッセー『子供たちの夜』に書いていた。向田さんは昭和4年の生まれだから、行間に漂うのは戦前の家庭のにおいである。
作家の向田邦子さんは子供の頃、宴席から酔って帰った父によく起こされた。手をつけなかった口取り肴(ざかな)や二の膳の折詰を広げ、父は「さあ、お上がり」と促す。夢とうつつの境で箸を行き来させる子供たちを、手枕で楽しげに眺めていたという。
▼日頃は怒りっぽい父も、酔うと優しい。〈記憶の中で「愛」を探すと、夜更けに叩き起されて、無理に食べさせられた折詰が目に浮かぶ〉とエッセー『子供たちの夜』に書いていた。向田さんは昭和4年の生まれだから、行間に漂うのは戦前の家庭のにおいである。