産経抄

5月17日

 昭和49年の夏、阿部牧郎(まきお)さんは直木賞に落選した。6年前に初めて候補にあがって以来、7度目である。「惚(ほ)れた女に男がいた。あきらめる以外にない」。そんな心境だった(『大阪迷走記』)。

 ▼しばらくして、サンケイスポーツで連載が始まった。総合商社を舞台にした官能小説『金曜日の寝室』である。「オモロイでんなあ」。阿部さんは、街に出ると、見知らぬ人から次々に声をかけられる。小説家になって初めての経験だった。