産経抄

6月5日

 夏目漱石はロンドンに留学中、何度も下宿を変えた。大きな停車場の近くに住んでいたとき、夜中にパチ、パチという音が聞こえていた。「各列車が霧の深い時には、何かの仕掛けで、停車場間際へ来ると、爆竹の様な音を立てゝ相図をする」(『永日小品』)。

 ▼鉄道マニアの英文学者、小池滋さんによれば、仕掛けの正体はレールの上に置かれたクラッカーだった。霧が深いと信号は役に立たない。代わりに機関車を止めさせるべきところにそれを置き、爆音で知らせるというわけだ(『「坊っちゃん」はなぜ市電の技術者になったか』)。