産経抄

6月6日

 「許してくれ。悪かった。お願いだから殺さないでくれ」。長男の命乞いに、父親は耳を貸さなかった。「いまじゃ、もう遅いんだよ。親を親とも思わない人間は親の手で死なせてやる」。平成4年6月、現在のさいたま市で高校教師が23歳の長男を刺殺する事件が起きた。なんともむごたらしい場面である。

 ▼長男は高校、大学を中退し、家庭内暴力を繰り返していた。教育熱心で生徒に慕われていた父と優しい母。一見理想的にみえる家族に、何が起こっていたのか。教育ジャーナリスト、横川和夫さんのルポ『仮面の家』が新聞に連載されると、ひんぱんに読者から電話がかかってきた。「私の家も同じような子を抱えているんです」。