産経抄

6月9日

 将棋の十五世名人、大山康晴は「食」の武勇を誇った人でもある。タイトル戦の前夜、関係者との会食で料理を一気に平らげた。追加で頼んだステーキも胃に収め、こううそぶいている。「明日の朝はウナギだ」。

 ▼対局相手は鋭気をくじかれ、翌日の勝負は大山の圧勝に終わったという。盤面の上より、相手をにらむ時間の方が長い棋士でもあった。人工知能(AI)が大手を振るいまの時代から見れば、機略を縦横にめぐらせた盤外の駆け引きはおとぎ話に聞こえなくもない。