産経抄

6月12日

 田辺聖子さんが作家になる前、金物問屋で働いていた話は昨日書いた。目の回るような忙しさの中、当然、男たちの口は荒くなる。自伝小説『しんこ細工の猿や雉(きじ)』に、こんな描写がある。

 ▼「『あほ、ぼんやりすな!』 いつだか、あたらしくはいった女の子はそうどなられて、しくしく泣き出し、一日で辞めてしまったことがあった。男たちは責任のなすり合いをして、『しーらんで、知らんで。ワイ知らんで』といっていた」。