産経抄

6月16日

 貴人の飲食物を毒味する役目は、平安期にはすでにあった。元旦に天皇が召し上がる屠蘇(とそ)を試飲するなどした、薬子(くすりこ)という未婚の女性がそれである。毒味役に「鬼」や「鬼食ひ」の異名があるのは、薬子が宮中の鬼の間に控えていたからだとされる。

 ▼古往今来、刀槍(とうそう)や弓馬の争いを制した者だけが歴史の勝者というわけではない。毒を盛り、盛られの応酬も歴史の暗部をなしてきた。百鬼夜行の権力闘争の舞台裏で、命を落とした名もなき毒味役たちも多かったろう。彼らの屍(かばね)の上に、今日があるといってもよい。