産経抄

6月20日

 5年前、夫の瓜生(うりゅう)新兵衛との間に縁談が持ち上がったとき、剣の達人との触れ込みだった。満江が疑惑をもったのは、あの地震の夜からだ。激しい揺れで跳び起きると、黒い影が部屋を飛び出して行くのを見た。

 ▼地震がおさまって外へ出ると、寝間着姿ではだしのままの夫が立っていた。-武士が、なんといううろたえようだろう。満江はあっけにとられた。藤沢周平ファンならおなじみの海坂藩を舞台にした、短編『臆病剣松風』の一場面である。