産経抄

7月9日

 97年前の今日、60歳で世を去った文豪・森鴎外は、娘を溺愛していた。長女の茉莉(まり)が幼い頃、書斎に入っていくと、仕事を中断して膝の上に乗せた。「お茉莉は上等、目も上等、鼻も上等、頬っぺも上等、性質も素直でおとなしい」。

 ▼こんな「お茉莉賛歌」を耳元でささやくのが常だった。「私の大きな欠点である自惚(うぬぼ)れの芽はこのとき芽生え、次第に葉を拡げて大きな木位もある草に成長したらしい」。長じて作家になった茉莉は書き残している。「父親は恋人以外の何者でもない」と断じてはばからなかった。