産経抄

7月28日

 将棋界は席次にうるさい社会である。盤をはさみ上座と下座があり、どちらに座るかは本来、実績で決まる。谷川浩司九段の挿話を思い出す。史上最年少の21歳で名人に就いた後、名のあるベテランと対局に臨んだ。

 ▼名人は棋士の最高峰。「上座は自分が」と谷川青年は気負い立ったものの、先に来たベテランに座を占められた。「私の座る場所がない」。感情のさわだちを抱えたまま、対局が始まったという。気分の照り曇りは勝負に響く。たかが席次-と簡単には片付かない。