産経抄

8月11日

 「山」という単語は、フランス語では女性名詞として扱われる。東京帝大仏文科に学んだ太宰治は、女性をもてなすような筆致で山を描いた。郷里青森で随一の高さを誇る岩木山を、小説『津軽』で賛美している。

 ▼〈十二単衣(ひとえ)の裾を、銀杏(いちょう)の葉をさかさに立てたようにぱらりとひらいて(中略)透きとおるくらいに嬋娟(せんけん)たる美女ではある〉。津軽平野に山裾をくつろげる姿は艶(あで)やかで美しい、と。標高1625メートルの高峰が太宰の手を経ると一幅の美人画になる。筆の妙技だろう。