産経抄

8月25日

 落語の名人、三遊亭円朝が東京・早稲田の大隈重信邸に呼ばれた。一席披露した後、盃(さかずき)を勧めてくる人がいた。主賓の伊藤博文である。「恐れ多い」とためらう円朝に隣の客がささやいた。「受け給(たま)え。実は、この席では君が一番エライんだぞ」。

 ▼君が死んだら、衣鉢を継ぐ者はいるのか。ございません。「この席にいる元老なり大臣なり、皆くたばっても、その後継者はいくらでもある」。だから君が一番偉い、とその客は笑った。後に桂太郎内閣で外相を務める、小村寿太郎である(徳川夢声著『話術』)。