産経抄

9月10日

 刑務所暮らしのつらさの一つは、読み物がないことだという。3度の服役経験のある安部譲二さんは、どこの刑務所でも木工場で働いていた。棚には、インテリアの専門誌『室内』のバックナンバーが並んでいた。

 ▼活字に飢えていた安部さんは、たちまち編集長兼発行人だった山本夏彦さんの巻末エッセーに夢中になる。ヤクザから足を洗って3年たった昭和59年、安部さんは47歳になっていた。競馬の予想屋をしながら、細々と小説を書いていたところに、思わぬ人から電話がかかってきた。