産経抄

11月12日

 31年前の今日、85歳で亡くなった草野心平は、「蛙(カエル)の詩人」と呼ばれていた。「トテモキレイナ花。イッパイデス。イイニオイ。イッパイ。オモイクライ。オ母サン。ボク。カエリマセン。」(「青イ花」)。

 ▼まだ幼いカエルはヘビに呑(の)まれてしまった。目の前に広がっているきれいな花は、ヘビの毒による幻覚だろうか。意識が薄れるなか、母親に別れを告げているのだ。カエルは常に天敵の脅威にさらされている。その一方で、親の虐待に苦しむことはない。