産経抄

11月26日

 〈町には暗がりがあっただから家の灯が見えた〉(昭和の歌)。作詞家の故阿久悠さんにとって、前回の東京オリンピックが開催される前の昭和30年代は、「最後の楽園の時代」だった。阿久さんによれば、この時代には「人間が生きるためのシステム」と「人間と人間の間の心地いい距離」があった(『昭和と歌謡曲と日本人』河出書房新社)。

 ▼当時の東京には地下鉄が2本しかなかったが、その代わり都電が網の目のように走っていた。平成と令和の時代には、世界全体にインターネットと呼ばれる網が、張り巡らされている。町全体が明るくなり、暗がりがなくなった分、家の灯が見えなくなった。