産経抄

1月7日

 安保闘争の最中、東京の銀座通りで見た光景を加藤日出男さんは忘れることができなかった。デモ行進のかたわらで、氷店の若い配達員がべそをかいていた。氷が溶けかかっているのに、学生たちは道をあけようとしない。君たちは貧しい人の味方ではなかったのか。

 ▼加藤さんの家は、配達員と同じような境遇の若者たちのたまり場だった。御用聞きに来る米屋、酒屋の小僧さん、新聞配達の少年…。「ご苦労さん」と声をかけたのがきっかけである。当時、東京都内に約30万人いた住み込みの店員や女中さんのほとんどが、中学を卒業してすぐ上京した地方出身者だった。