産経抄

3月1日

 汗と涙は、同じ塩の味がする。人が天から授かった味覚の中でも、この苦みほど大事な味はないと思うときがある。〈多くの多くのなやみのあとで、一つ地図がこころに残る/こころに残る私の地図よ、涙の塩の白い地図〉。

 ▼詩人の堀口大学が、『涙の塩』の一節に詠んでいる。五輪の季節が近づくにつれ、若者たちの流す汗と涙の塩辛さを思い、涙腺を揺さぶられることが増えた。汗が報われるのは一握りの勝者でしかない。一生に一度、その一日のために青春を差し出した敗者の涙は、ことさら胸に染みる。