産経抄

3月29日

 将棋の実力制第四代名人の升田幸三が、十四世名人の木村義雄と指した。一手の緩みで窮地に立った升田は、盤面でなく木村の息遣いに目を凝らしたという。「息を吐こうとした瞬間に、バシッと駒を打つ。すると木村さん、ハッとするわけだ」。

 ▼それを繰り返すうちに木村が乱れ、逆転勝ちしたと自著に書いている(『王手』成甲書房)。吸う、吐く。隙が生まれやすいのは後者らしい。「息を吸うときは、無意識のうちに全身を緊張させますが、吐くときは逆に弛緩(しかん)する。その虚をつくと、動揺が大きい」。