産経抄

4月8日

 昭和62年に73歳で亡くなった作家の富士正晴は、「竹林の隠者」と呼ばれていた。大阪府茨木市の小高い丘陵にある竹林の中に住み、ほとんどそこから出ることはなかった。近くのたばこ店に1、2度行ったきりという年もあったほどだ。

 ▼古今東西の書物に囲まれて、自分の書きたいものだけを書いた。執筆の合間に、家の近くにいるイタチやネズミ、ヘビの生態を観察するのを無上の喜びとしていたそうだ。安倍晋三首相が昨日、発令した緊急事態宣言から、仙人のあだ名もついていた作家を思い出した。