産経抄

6月14日

 神田明神下のけちな長屋に住む岡っ引き-といえば銭形平次である。四文銭を投げつけ、悪人を成敗する捕物帳シリーズは長短383編に及ぶ。その第1作『金色の処女(おとめ)』で平次が放った記念すべき第1投は、意外なことにピカピカの小判だった。

 ▼懐が潤っていたという話は聞かない。作者の野村胡堂いわく〈年がら年中、ピイピイの暮らし向き〉で、小判といえばひと財産である。命を狙われた三代将軍家光の危難に接し、たまたま腹巻の中にあった虎の子の1枚を、惜しげもなく放り投げたのが真相らしい。