産経抄

6月26日

 「こんにちは」。22歳で中国から来日した時、聞き取れた唯一の日本語だった。それから21年後の平成20年、楊逸(ヤン・イー)さんは芥川賞を受賞する。中国人として、いや日本語を母語としない作家で初めての受賞とあって大きな話題となった。

 ▼受賞作の『時が滲(にじ)む朝』は、天安門事件を題材にしている。民主化運動に身を投じた、楊さんと同世代の若者の夢と挫折を描いたものだ。「『学生が正しい』とか『政府が正しい』なんて、単純に結論を出せるものではない」。当時の小紙のインタビューでは、政治に距離を置く発言だった。